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視覚障害とは

視覚障害の定義と種類

人間の感覚には味覚、嗅覚、触覚、聴覚、視覚、平衡感覚などがあると言われていますが、このうち「視覚」に障害がある場合を視覚障害と呼びます。実際には「視覚」のみに障害のある方(単一障害)だけではなく、視覚と聴覚、視覚と触覚など、複数の障害を併せ持った方(重複障害)も少なくありません。厚生労働省によれば、視覚障害と他の障害を併せ持つ方は6万9千人以上おられます。

なお、昨今の常用漢字見直しの流れに沿って、障害(Disability)を指す場合は旧来の文字使いのまま、障害者(Person with Disability)を指す場合は「障がい者」と表記します。

厚生労働省「身体障がい児・者実態調査」
(平成18年)

平成18年の厚生労働省の調べによりますと、日本の視覚障がい者数は約32万人です。これは、「身体障害者手帳(視覚障害)」を交付された人が32万人という意味です。身体障害者手帳は、障害年金や、補装具・日常生活用具の給付、電車・バス等の運賃の割引など福祉や年金制度を利用する上で必要なものです。

これから、視覚障害の種類についてご説明していきたいのですが、その前に、視覚障害を理解するうえで重要なポイントを2つご紹介します。

  • POINT1 視覚障がい者の中で障害の程度が最も重い1級の人の数は10万5千人。しかし、1級の場合でも、わ ずかに見えている人もいます。ですから「全盲」(全く見えない方で、視覚では明るいか暗いかの判別ができない)の方よりもはるかに多くの視覚障がい者が「弱視(ロービジョン)」(目が不自由だけれどもある程度は見ることのできる)です。WHOのロービジョンの定義は、「両眼に眼鏡をかけた矯正視力が0.05以上0.3未満」となっています。後述しますが、その見え方は千差万別です。これが、多くの誤解を生む原因ともなっています。
  • POINT 2視覚障害はひとりひとり違う:見え方がそれぞれ違うということは、困っていること(ニーズ)がそれぞれ違うということです。視覚障がい者障害をサポートする場合、あるいは誰もが住みやすい社会を考える場合、必要な視点は1つではない、と知る事が大切です。

それでは、視覚障害の種類・分類を見てみましょう。

視覚障害の程度による区分

身体障害者手帳(視覚障害)には1級から6級までの等級があり、1級が最も重度の視覚障害です。

例えば1級は「両眼の視力の和が0.01以下のもの」、6級は「一眼の視力が0.02以下、他眼の視力が0.6以下のもので、両眼の視力の和が0.2を超えるもの」となっています。等級によって受けられる福祉サービスが異なります。気をつけたいのは、等級の区分はあくまで数字上のもので、視覚障がい者のニーズや「困り具合」は等級にあまり関係ないことも多く、人それぞれであるということです。

また、全国に100万人以上と言われるロービジョン人口のほとんどは、身体障害者手帳の交付が受けられない程度の視覚障害であったり、手帳を申請することに消極的であったり、中には、手帳の存在をそのものを知らない方もまだおられるようです。「人ごと」と思われるかも知れませんが、このページを読んでいる皆さんの誰もが、加齢によってロービジョンに近づき、虫メガネのような拡大鏡を使うなど工夫をしなければ文字が読めなくなるのです。皆さんが視覚障がい者の福祉を考えることは、将来の自分を考える事でもあります。ぜひ末尾の「あなたにできること」をご覧下さい。

先天性と後天性

先天性とは、生まれつき視覚に障害があること。後天性とは、人生の半ばで視覚に障害をもつことです。

先天性の場合、幼少のころから盲学校(視覚特別支援学校)に通って点字や職業教育など、専門的な教育を受けることができます。幼いころから点字に親しんでいる方の点字の読み書きの速度の速さには、驚かされることがよくあります。しかし、盲学校は生徒数が少なく、集団で過ごす経験は不足しがちです。また、県に1校しか盲学校がないというところも多く、そのため、通学のために、親は引越しするか、毎日送り迎えするか、それとも子供を寮に入れるか、いずれかを選ばなければならないこともあります。

盲学校ではなく、地域の学校で学ぶことを選択することもできます。その場合、住み慣れた地域で、家族と離れて暮らすことなく、学校生活を送ることができます。しかし、点字や拡大文字の教科書・参考書の準備や、授業を進める上での配慮については、まだまだ不十分な点も少なくないのが現状です。

一方、後天性の眼疾患の場合、これまでの視覚中心の生活から大きな転換を余儀なくされ、その苦労は想像に余りあります。施設に入所して、あるいは通いながら、歩行訓練や点字・音声パソコンの訓練、家事や日常生活動作の訓練を受けることは大切です。しかし、中には、そのような訓練があることや、視覚障がい者のための日常生活用具や補助具など知らないままに過ごしている方も、まだまだおられるようです。また、働き盛りの中年期に視覚に障害を持った場合、仕事を継続するためにはさらに多くの努力と視覚障害に対する周囲の理解が必要です。

見え方(範囲によるもの)

疾患によって見える範囲(視野)が制限される現象を、視野障害と言います。

視力が低い時の見えにくさは、眼鏡やコンタクトレンズを使用している人であればある程度イメージしやすいかとは思いますが、視野が制限される、というのは分かりにくいのではないでしょうか。

例えば、求心性視野狭窄(きゅうしんせいしやきょうさく)では、見える範囲は、細い筒を覗いたように中心部分の狭い範囲だけになります。この場合、例えば、新聞の文字を読めるぐらいの視力があっても、まわりが見えないために段差につまずいたり、物を探すのが難しかったりします。逆に、周辺部分は見えるけれど中心部分が見えない疾患もあります。この場合、まわりの様子はなんとなくわかるので、道路に黄色い点字ブロックがあると道の方向がわかって歩きやすいこともあるのですが、まわりの色と似たような点字ブロックは見分けることができず不便を感じたり、思わぬものを見落としてぶつかったりすることもあります。また、見えない部分が「まだら状」になっている場合もあります。

このように視野が狭かったり、一部分しか見えなかったりする場合、本人もどの部分が見えていないのか把握できていないこともあり、また、まわりにいる人たちも、何が見えていて何が見えていないのか理解しにくく、そのために「そそっかしい性格」とか「見えているのに見えないふりをしているんじゃないか」など、さまざまな誤解を受けてしまい、人間関係がうまくいかなくなってしまうこともあります。

時間帯や光の加減によるもの

視覚障害によっては、まぶしさを非常に強く感じたり、光の加減によって見え方がまったく違ったりすることがあります。

視覚障がい者が、日中帽子を深くかぶったり、色付きのサングラスをかけたりしているのは、目や顔を保護する目的の他にまぶしさを防ぐ意味もあります。

また、網膜色素変性症という疾患の場合、明るい場所では比較的よく見えるのに、暗がりではほとんど何も見えない、という方が多くおられます。これは、微量の光をキャッチする事のできる網膜の杆体(かんたい)細胞がダメージを受けていることが多いからです。明るさのわずかな変化になれるのにも時間がかかり、たとえば、明るい外から屋内に入っただけでもとても暗く感じ、しばらくの間、なにも見えない状態になってしまうこともあります。同じ病名でも、症状や見やすい明るさの条件は人によってさまざまであるということも、ぜひ知っていただければと思います。

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盲学校(視覚支援学校)というところ

学校とは何を勉強するところでしょうか?視覚障がい児のために、特別な内容の授業をしていると考える方も多いのではないでしょうか。実際は、盲学校(視覚支援学校)の小学部・中学部・高等部普通科では、カリキュラムは普通学校と基本的に同じで、使っている教科書も内容も変わりありません。もちろん、教科書は拡大教科書(下写真)や点字教科書などを利用します。生徒はロービジョンから全盲まで幅広く、また視覚以外にも障害をもっている場合もあります。拡大教科書ひとつをとっても、生徒の見え方によって文字の大きさを吟味し、授業では視覚に頼らなくても理解できるように工夫を凝らさなければいけません。そのため、授業はオーダーメード、マンツーマンの場合もあります。

授業で勉強するだけでなく、歩行訓練など視覚障害に対する専門的な指導を受けることもできます。しかし、盲学校(視覚支援学校)によっては、歩行技術を教える専門技術(白杖歩行訓練士)の資格を持っている先生がいなかったり、また、せっかく先生が視覚障がい児に対する指導技術を身につけても、数年に一度の配置換えで普通校に転任してしまう、というケースも珍しくありません。視覚に障害を持った子どもたちが十分な専門教育を受けるためには、まだまだ社会的な整備が必要です。

なお、高等部では、一般校のカリキュラムとは違い、鍼灸マッサージの資格をとるための専門教育課程(専攻科)もあります。

拡大教科書「啓林館 わくわく算数 小4上」(同社ホームページより)
左が17ポイント、右が29ポイントの文字

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視覚障がい者の職業

江戸時代にはすでに、「あんま、鍼(はり)、灸(きゅう)」が視覚障がい者の職業として確立しており、江戸幕府公認の「職業訓練所」が開設されていたといわれています。現在もこの三療業は「あはき」とも呼ばれ、視覚障がい者の職業として、ほとんどの盲学校では、この三療業を習得するための理療科が設置され、国家免許の受験資格が得られます。免許取得後は、自営の治療院を開業するケースが多かったのですが、最近では、晴眼者(視覚に障害のない人)のためのあんま、鍼の専門学校や気軽に立ち寄れるマッサージ専門店などが次々とオープンし、視覚障がい者の個人経営は容易ではありません。一方、企業のヘルスキーパー(社内で社員に対してマッサージ等を行う仕事)は若干増えてきているようです。

その他、視覚障がい者の伝統的な職業としては、箏曲や三味線の教授があげられます。また、ピアニストの辻井伸之さんやバイオリニストの梯剛之さん、和波孝禧さん、川畠成道さん、海外ではスティービー・ワンダーなど、世界で活躍している著名な音楽家もおられます。

近代、視覚障がい者の職業として注目されてきたのは、コンピュータープログラマーではないでしょうか。また、現在は、パソコンの画面の文字をそのまま読み上げてくれる「音声読み上げソフト」や、点字ディスプレイなど、視覚障がい者がパソコンを使うためのツールがいろいろ開発されてきており、一般職として企業や役所に採用されるケースもあります。

しかし、他の障がいに比べると、一般企業での視覚障がい者の雇用ななかなか厳しい状況です。企業側は、視覚障がい者にどんな仕事ができるかわからず雇用に躊躇してしまう面があるようです。確かに視覚的な情報が利用できない場合、職場環境に慣れるのにもある程度の時間は必要です。しかし、最近では視覚障がい者の就労のためにジョブコーチを活用する例もみられます。どんな仕事ができるのか、どう接したら良いのか、必要な配慮は何か、といったことは、視覚障がい者と雇用者の双方が理解し合い、協力していく姿勢が必要です。

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今後の課題

日本は世界一の長寿国であり、指折りの豊かな国であるが故に、医療問題は深刻です。近年、糖尿病網膜症、緑内障、加齢黄斑変性症などで視覚に障害をもつ人の数が増えてきました。今後は、人生の半ばを過ぎてから視覚に障害をもつ人の数がますます増えることが予想されますから、視覚障がい者に対する理解を更に高めることが急務と言えるでしょう。

また、日本人の高齢化にともなう視覚障がい者人口の高齢化、視覚以外の障がいをもつ重複障がい者の増加など、障害の多様化は今後ますます進んでいくでしょう。これはニーズが多様化しているということであり、紋切り型の対応ではなく、柔軟な対応が求められます。

最後に、最近よく見かける「触地図」についてひと言。触地図とは、視覚障がい者がさわって理解することのできる地図のことで、駅の切符売り場近くなどによく設置されています。一見、視覚障がい者への配慮が行き届いているように思えます。しかし、写真(右)でも分かるように、この地図の存在や場所を、視覚障がい者はどうやって知るのでしょうか?そして、触地図だけでそれぞれの位置関係を把握するのはなかなか難しいものです。

例えばトイレに行きたいとします。この触地図の場所を人に聞いてたどり着き、地図を頼りにトイレを探すよりは、直接トイレに手引きで連れて行ってもらったほうがよっぽど早そうです。このように、視覚障がい者が使いやすそうで、実はあまり役にも立っていないものが結構あります。あたりまえの話ですが、ソフト(コミュニケーション、ふれ合い)があってこそ、ハード(装置)は生きてきます。何よりも怖いのは、ハードがあるからと言って、我々自身が安心してしまうことではないでしょうか。ソフト不在の福祉こそ、今後の最大の課題、と言えるかもしれません。

あなたに出来ること

ロービジョン人口は100万人以上と書きましたように、視覚障害は非常に身近で、特別なものではありません。もし、自分が目が見えないとしたら、どんなことができなくて困るだろうか、どうしたらできるようになるだろうか、と疑問を持ち、視覚障がい者の立場に立って考えることが何よりも大切です。ここでは、それを考えるきっかけにしていただくため、何点かポイントを書きたいと思います。

  • POINT1 手引きの方法を勉強する
    手引きとは、視覚障がい者が目の見える人の肘を持ち、安全に誘導してもらう方法です。とてもシンプルな方法ですが、白杖や盲導犬より安全です(もちろんやり方にもよります)。実際に手引きを勉強したい方は、関西盲導犬協会が毎月行なっている一般見学会にご参加ください(詳しくはこちら)。
  • POINT2 白杖を持っている方や盲導犬を使っている人が困っているようすだったら、
    「何かお手伝いしましょうか?」と声をかける

    白杖(白い杖)は、持っている人が視覚障がい者と分かるように国際的に色が白(まれに黄色)と決められています。横断歩道で渡るタイミングは非常に取りづらいものですから、特に手伝いが必要な場合があります。
  • POINT3 駅前の放置自転車や違法駐車を見た時に、
    視覚障がい者はここをどうやって歩くのだろう?と疑問に思ってみる

    健常者が歩きにくい道は、視覚障がい者にとっては非常に歩きにくい場所です。これは車椅子を使用されている方も同じでしょう。
  • POINT4 自分や家族が視覚障害を持った時、仕事や学校はどうするのか、
    どこに相談して、どのような手続きをとれば良いのか、調べてみる

    情報の少なさにきっと驚かれると思います。幸い、多くの地域に、視覚障がい者の団体やサポート団体があります。詳しくは、地域の社会福祉協議会などに問い合わせるのが良いでしょう。

以上で「視覚障害とは」のページを終わります。最後までご覧いただきありがとうございました!

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