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季刊誌「ハーネス通信」

2013年10月のバックナンバー

視覚障がいって?~2013年秋号特集~

 二学期に入ると、国語の教科書での学習や人権学習などで、視覚障がい者や盲導犬について学習する小学校や中学校が増えてきます。そこで今回は、視覚障がいや白杖についても取り上げてみました。


1.目が見えない・見えにくいって?
 平成24年版「障害者白書」によれば、日本の視覚障がい者人数は、31万5千人。でも、そのすべての人たちが、まったく見えないというわけではありません。障害の程度が重い1級の場合「両眼の視力の和が0.01以下」と決められています。片眼が0.01、片眼が視力0の人も、まったく見えない人も視覚障害の程度でいえば、同じ1級ということになります。ですので、一口に「視覚障がい」といってもその程度は同じではありませんし、まったく見えない人より見えにくい状態の人の方が人数は多いのです。
 では、見えにくい状態とは、どのような感じなのでしょうか。
 写真を見てください。
・全体的にぼんやりと見える、という見えにくさ
・狭い範囲だけが見える、という見えにくさ
・まわりはぼんやり見えるけれど中心部分が見えない、という見えにくさ
 その他、輪っか状に見える部分がある、どちらか片側だけが見える、といったような見えにくさもあります。
 また、その時の天気や時間帯、部屋の明るさによっても、見えにくさは違う場合があります。

2.見えない・見えにくいとできないこと、できること
 その人が見えにくくなったのはいつからなのか、どんな経験をしたことがあるのかによって、できること・できないことは違います。「見えないこと」イコール「何もできない」というわけではありません。
 例えば、目を使わなくても、物の置き方を工夫したり、手の動かし方や指の使い方を意識するだけで、できる家事はいろいろあります。『ハーネス通信』2013年春号でご紹介したような便利グッズを利用するという方法もあります。
 でも、やはり目で確認するのができないと、時間や手間がかかったり、不便なことも少なくありません。目の見える人の手伝いが必要な時もあります。
 見えない・見えにくいためにできにくいことはどんなことか、どんなお手伝いが必要なのか、みんなで話し合ってみてはいかがでしょうか?

3.手引きの豆知識
①いっしょに歩く時に気をつけたいことは?
ハーネス通信 007.jpg 手引きは、目の見える人といっしょに歩く時に便利な方法です。視覚障がい者が手引きをする人のひじを持つか、肩に手を置いて歩くスタイルが基本です。
 手引きをする時は、まず左右どちらの方が手引きを受けやすいかを視覚障がい者に聞いてみましょう。いっしょに歩いている時は、段差で止まったりぶつからないように歩くだけでなく、その時の周りの様子もさりげなく言葉で伝えられたらいいですね。また、別のスタイルの方が歩きやすいという人もいますから、その時はその人に合わせて歩くようにしましょう。

②どうやって声をかけたらいいでしょう?
 もし、町の中で知っている視覚障がい者に出会ったら、「○○さん、こんにちは。」と挨拶するだけでなく、自分の名前も忘れずに言うようにしましょう。あるいは、「○○さん、こんにちは。この間、○○さんが来てくださった△△小学校4年生の・・です」と付け加えたら、誰が自分に話しかけたのかがわかります。「○○さん」と言わなかったら自分に話しかけられたとわからない時がありますし、「・・です」と言わなかったら、誰と話をしているのかわからない時があります。
 もし、知らない人だけど、ちょっと困っているようだな、お手伝いした方がいいかな、と感じた時は、「何かお手伝いすることはありますか?」とか「何かお困りですか?」と声をかけて聞いてみてください。

4.杖の豆知識
①なぜ杖を使うのでしょう?
 視覚障がい者が杖を使うようになったのは、いつからでしょうか。ローマ時代の文献には、視覚障がい者が杖を使って一人で歩いていたことを記録した例が多くあるそうです。また13世紀の中国の絵巻物にも、市場の中を杖を持ち犬を連れて歩く視覚障がい者らしい男性が描かれたものが残っています。
 杖は、進む方向に障害物がないか、段差がないか、といった路面の変化などの情報を収集して安全に歩くことができるように、そして視覚障がい者としてのシンボルという重要な役割を果たしています。

②なぜ白いのでしょう?
 1930年、アメリカ合衆国イリノイ州ペオリア市のライオンズクラブが、社会奉仕活動の一環として「白杖普及運動」を始めました。この運動は、アメリカの他の州でも白杖に関する法令が制定されるきっかけになりました。
 日本では、道路交通法第十四条に「目が見えない者(目が見えない者に準ずる者を含む。以下同じ。)は、道路を通行するときは、政令で定めるつえを携え、又は政令で定める盲導犬を連れていなければならない」とし、道路交通法施行令第八条で「政令で定めるつえは、白色又は黄色のつえとする」と法律で決められています。

5.片倉早苗さんのお話
 30年近く盲導犬との生活を続けておられる片倉早苗さんにお話をお聞きしました。

 幼児期に失明したので、小学校から盲学校でした。自宅からは通学できる距離ではなかったので寄宿舎で生活していました。当時の盲学校では、弱視の子とペアになって歩くのが当たり前でしたし、歩行訓練の時間もありませんでした。だから学生の時は、白杖は持っていませんでした。
 卒業後、治療院に勤めるようになって初めて白杖を持ちました。すぐ折れてしまいそうな木製の短い杖でした。勤務先の治療院は訪問治療もしていたので、行きは一緒に行ってくれる人に道を聞いて必死で道を覚え、帰りは自己流ですが白杖を使って帰ります。田んぼや畑の多い場所だったので、用水路に落ちたこともありました。
 やがて、息子が生まれ、その子が歩き出すと、「お母さんとしっかりお手々つないでいてね」と自然に手をつないで歩きますよね。それがそのまま、いつのまにか私を手引きしてくれるようになりました。息子が小学生になってからも、買い物などはいつも息子と一緒に行っていました。
 その息子が小学校4年生の時でしょうか。家に帰ってくると「お母さん、今度の日曜日に買い物に行く?」と聞くのです。「うん、行くよ。またお願いね」と返すと、息子は「じゃぁ、買い物が終わってから○○君と遊びに行くわ」と言いました。それを聞いた時、ハッとしました。私のために子どもの時間を使わせてはいけない、私はちゃんと一人で歩かなくちゃ、と一大決心をし、日本ライトハウスで訓練を受けることにしました。
 日本ライトハウスはJR片町線の放出駅から歩いて15分ぐらいのところにあります。一人で通えるようになったある日のこと、放出駅で所長と一緒になり、「一緒に行こう」と声をかけてもらいました。当時、日本ライトハウスの所長は盲導犬ユーザーで、盲導犬と歩く所長について歩くわけですが、一緒に歩くと10分足らずで着きました。そのスピードとしかもぶつからずに歩けたことに感動しました。私も盲導犬が欲しい、と思いました。早速、盲導犬の貸与を申し込んだところ、日本ライトハウスでの訓練が終わるか終わらないかのうちに共同訓練に入ることができました。
 盲導犬をもってからは、迷っても大丈夫と思うことができ、安心して出かけられるようになりました。とにかくよく出かけるようになりました。コンサートや現地集合の格安旅行などにも行きましたし、行動範囲が広くなりました。
 盲導犬と歩くことは、必ずしもいい面ばかりではありません。電車の中で、隣に座った人が犬嫌いな様子であれば気を遣いますし、逆に犬の好きな人はさわったりするので、それも困ります。白杖ならそういう気遣いは要りません。また、気の合う人の手引きで歩く時は、おしゃべりをしながら退屈することがありません。
 実は、3頭目の盲導犬の引退を考えた時、4頭目をもつかどうかかなり悩みました。白杖なら帰宅したら杖を傘立てに入れるだけすみます。しかし、盲導犬の場合には、まず玄関先で犬の足をきれいに拭き、体のほこりを落とすなどしなければなりません。また、毎日のブラッシングも必要です。こんなふうに手をかけ、愛情を注ぐことが大切なのです。自分の年齢などを考えた時、盲導犬と歩くことに心配はありませんでしたが、そんなふうに十分な世話ができるかどうか心配だったのです。
 でも、逆に、以前でしたら白杖を使っての外出もあまり苦にならなかったでしょうけれど、今の私はやっぱり盲導犬がいないと困るのです。しかも、ただ単に安全に歩けるから盲導犬という方法を選んでいるわけではないようにも思います。イヤなことがあった時黙って話を聞いてくれる、この子がいてくれるからがんばって行こうという気持ちになれる、そんなかけがえのない存在だから、盲導犬といっしょに暮らすことを選んでいるのだと思います。

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